版画の基礎知識


ギャラリーで版画作品を観賞、購入する際は、版画の知識を少し持っていれば、ギャラリーで実際に作品を見た時に、より楽しむことができます。ギャラリーを訪れても、何の事だか分からない専門用語も沢山あります。ここではご質問の多い用語について少しだけ触れ ておきます。


●オリジナル版画とは・・・

@作家がその版画のために下絵を描き原版を制作し、試刷りをチェックしてOKを出すまで係わり完成した版画がオリジナル版画になります。

Aオリジナル版画は、完成した作品に原作者のサインと限定番号(エディション・ナンバー)を画面下に記入します。

Bただし1930年頃までは、オリジナル版画についての決まり事がしっかり定義されていませんでした。そのため、この時期に該当する版画作品は、オリジナル版画であってもサインが入っているケースはありますが、限定番号が入っていません。すなわちモダンマスターなど古い時代の版画作品には、オリジナルであってもサイン、エディションは記入されていません。サインの中には、版上サインというものがありますが、これは作品と一緒にあらかじめサインを原版に入れて刷ってしまうサインです。古い時代のデューラーやレンブラントの版画で、サインと言えば版上サインです。

artist aartist a
 

Cまた、制作部数が500部を超えるような部数の多い版画もオリジナルであってもラージ・エディションといってサインと番号が入らない場合が多いです。

D限定部数を刷った原版は、レイエといって版に傷を付けます。これは、原版が残っていると刷り増しされる可能性があるので、このような形を取り、破棄されます。

●エスタンプ(リプロダクション)とは・・・

オリジナル版画と区別して複製版画をフランス語ではエスタンプ、英語ではリプロダクションと言われております。複製については、オリジナル作品を原画として、それを第三者が版画技法,または機械印刷により再製したものとされております。

尚、レプリカという言葉は、彫刻や立体の複製に使われる言葉ですので、版画の複製に使う言葉としては妥当ではありません。

●エディション・ナンバーとは・・・

版画作品には、画面左下の余白に、50/100 といった数字が書かれています。これはエディション・ナンバーと呼ばれるもので、分母がその作品の限定部数を表します。この場合は、100部作られたうちの50枚目と言う意味になります。作品によっては、ローマ数字が使われている場合もあります。

同じ版画でも番号の早い方が価値が高い、刷りが良い、などと言う方がいらっしゃいますが、完全に間違いで、世界中のどの文献にもそのような記述やルールはございません。100部制作の版画は1〜100番まで全て価値は一緒で、仮に刷りミスがあったとしたら破棄されますので一様に一緒ですし、そこは刷り師の腕でしょう。

複製版画に番号が入っている場合がありますが、これには全く美術的価値はございません。何部刷りましたよ、位の意味です。

また、シリアル・ナンバーとは基本的には家電等の製造番号ですので、版画の番号を表す言葉としてはあまり使われません。エディション、と言った方が通っぽいです。

通常エディション・ナンバーが記入されている部分にアルファベットが記載されている事があります。

●E.A とは・・・

E.A とは、フランス語のエプルーヴ・ダルティスト(epreuve dartiste=保存版)の略で版画の作家保存分という意味です。

artist aartist a

●H.Cとは・・・

H.Cフランス語のオル・コメルス(hors commerce)の略で非売品の意味です。通常限定番号以外に摺った作品に記入されます。

artist aartist a
""

●A.P. とは・・・

英語では、これをアーティスト・プルーフ (artists proof=作家用)と呼び、A.P と表記します。版画の作家保存分という意味です。

このような作家保存版はそれぞれ本摺り限定部数の10%程度が摺られるようです。作家が自身の作品の資料として保存したり、その作品制作に協力してもらった関係者や友人・知人などに贈るための保存用ですが、今日では、作家、画商サイドからストレートに市場にでるケースも珍しくないようです。

artist aartist a
 
*「版画辞典 室伏哲郎」「愛と幻想のシャガール・ポスター芸術 サンケイ新聞社」ll;;;; より写真を参照させていただきました。
""